日本人を代表するフレーズかもしれません。最近、良く山本周五郎の小説を読んで居ます。実に沢山の作品が有るのですが、今までは「楡の木は残った」「長い坂」「赤ひげ診療譚」「さぶ」等の著名作品を読んで来ましたが、いずれも派手な設定に頼るのでは無く市井に生きる庶民や名も無き人物の中に深い人間ドラマを描き出して居ます。どの作品にも色濃く義理と人情が描かれて居ます。どう言う訳か、彼の売れない頃に執筆した「青べか物語」は未読でした。 彼は文壇デビューしたものの順風満帆とはいかず、原稿の掲載を断られ、スポンサーからも援助を渋られるようになり、失恋もあって精神的にも経済的にも窮した。こうした時期、1928年(昭和3年)夏から翌年秋にかけての時期、時は東京湾北岸の漁村だった浦安に暮らしました。物語の冒頭部分です。
「浦粕町は根戸川のもっとも下流にある漁師町で、貝と海苔と釣り場で知られていた。
ー中略ー
私は、その町の人たちから「蒸気川岸」の先生と呼ばれ、あしかけ三年あまり独りで住んでいた。」
「青べか物語」より
まず青べかですが、昨年訪問した浦安郷土博物館で現物が展示されて居ました。 この小舟が青ペンキで塗られた物、すなわち青べかが、まるで捨てている様に係留されている物を地元民から売りつけられて買う事が代表的に語られますが、その他浦安の住民の様々を観察して描いています。
社会学の参考書で良く出てくる‘きだみのる’の「気違い部落」より、遥かにきめ細かく描かれていると思いました。そして、この様々なエピソードが後の彼の冒頭にあげた代表作に結実していると思いました。彼が愛した浦安の街はほとんどが漁民で毎朝ベカ舟で豊饒の海に漕ぎ出し自然の恵みを収穫する生活でした。 そんな生活も現在はすっかり変わり、三番瀬は残りましたが今は相当沖合で漁業を行う様です。 さて、今日ご紹介した2作品は映画化されている事を知りました。機会があれば観たいものです。
最後になりますが、Youtubeでは膨大な数の山本周五郎作品の朗読がアップされて居ます。いつも聴くのですが20分ぐらいまでで夢の世界に誘われてしまいます。